graveyard

瞼の裏に描かれた
緑色に歪む地図

目を閉じれば見えてくる
僕が埋葬されている場所

いまのこの身体は
あなたのための身体

いくつかの僕の死体を
縫い合わせて作った

戯れに地上に降りたあなたを
空へ還すための身体

輝きを取り戻しつつあるあなたが
思ったよりも眩しかったから

ところどころ黴の生えたこの手を
伸ばすこともできなくて

せめて伝えたかったことさえ
うまく言えないままだけど

この寄せ集めの身体には
もう時間がなかったんだ

僕を縫い合わせた糸がほつれて
隙間に詰めた砂が漏れはじめてる

こんな姿をあなたには見せられない
最後まで見届けられなくてごめんね

この身体の動くうちに
僕はあの場所に戻ります

瞼の裏に描かれた
緑色に歪む地図

いくつもの僕の死体が
無造作に埋められている場所

僕のようないくつもの名前が刻まれた
あの墓標の下へと

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窓を開けたら

窓を開けたら
風が見えたよ

君の届けたかった
風が届いたよ

自分を守るように
外界と擦れあうように

そんな涙しか
流すことができなかった

すぐに閉じたがる
閉じかけてた僕の世界に

君の届けたかった
風が届いたよ

誰の中にもね

外の世界と1対1で符合する
すべての部品が含まれてて

それぞれ固有の方法で
外の世界と繋がっているんだ

たぶん僕は
涙で外界と繋がってる

僕が涙を流すのは
息をするようなものだからね

風といっしょに
見ててくれないかな

僕の涙の紡ぐ糸が
僕の涙が澄まされているかどうか

風といっしょに
見ててくれないかな

アイリーン=アドラーに捧ぐ

あなたはいつだって
自分に誠実だったけど

自分の思いにだけ
正直じゃなかったから

僕は自分を
排除される側に選別させてでも

あなたの思いを
確かめてみたかったんだ

そう
僕は決して好かれてなんていなかった

あなたの寂しさだって
埋められちゃいなかった

あなたは少しだけ
うらやましそうに僕を見て

どこか困った顔で
ありがとう、とだけ言った

それが僕に向けられた
たったひとつの感情

そしてそれは同時に
決別の意思表示だったけど

それでもただ
見ていたかったんだ

どんな形でもいい
関わっていたかったんだ

馬車屋の変装なんて
あなたには意味がなかったね

手渡されることのなかった
その最後の手紙でだけ

あなたはとても優しく
僕に微笑みかけたから

あなたはいつまでも
その優しい笑顔のままで

僕には見せてくれなかった
その優しい笑顔のままで

buoyancy

さよなら
僕の質量

水面に残る
かすかな水紋だけが
僕がそこにあったしるし

気管支を逆流して
僕を置き去りにする
僕のものだったはずの空気

入れ替わりに肺胞を満たす
僕を取り巻いていた
無関心だったものたち

僕の質量を分散させて
沈降を遅らせてまで
僕に何を見せようというの?

さよなら
僕の質量

ゆっくりと
ただゆっくりと
ひたすらに深くなる青

さよなら
僕の質量

僕は永遠という
何をも繋ぐことのない
青いだけの青になる

その言葉

わかってくれてるって
思ってたよ

だけど僕はその言葉を
言いかけては

何度となく
飲み込んでた

それだってわかってるって
思ってたよ

だけど僕は君のことを
言葉じゃなく

ただ大切に
したかったから

きっともうその言葉は
君を縛ったりしない

そう思ったから
言ってみることにしたけど

それじゃものたりないよって
君はとても柔らかく笑った

僕の手渡したひとつひとつの
言葉ではないものを

君はとても大切に
受け取ってくれたから

もうその言葉では
表現できないくらい

こんなに近くに
いてくれるんだね

でもね
伝えてみたかったんだ

こんなに近くに
いてくれる君に

その言葉を
たくさんのありがとうといっしょに

君のことが
だいすきだよ

melt into

ねぇ僕の手は
まだ冷たいのかな

抱きしめる腕に
温もりが足りないなら

躊躇する気持ちに
温度が足りないなら

神様お願い
勝手なのはわかってるんだ

僕のこの身を
ガスバーナーで焼いてもいい

いつか放棄した僕の体温を
いますぐに僕に戻して

融点を問うように
僕を溶鉱炉で灼いてもいい

いつか放棄した僕の体温が
いまどうしても必要だから

僕は温もりに閉ざした
僕自身の痛みもそのままに

もう要らないと思ってた温もりを
もう一度僕のなかに構成するよ

ただ君を
君を抱きしめるために

凍える君の凍えを
嘆く君を涙に溶かして

僕はその涙ごと
君を抱きしめたいんだ

微笑む君の逡巡を
戸惑う君を涙に溶かして

僕はその涙ごと君を
強く強く抱きしめたいんだ

beside

傷つかないのがいい
悲しくないのがいい

だけど
たいせつなのは

そばにいることだから

傷つけてしまうとしても
悲しくしちゃうとしても

ただ
今を重ねるように

そばにいるからね

傷つけてもいい
悲しくしてもいい

だから
温度を重ねるように

離れないでいてね

moon child

月が光を湛えることを忘れて
その色を青へと変える夜

僕は青くなる月を見上げては
そっと涙を流してた

そうだよ僕は
あの月から零れ落ちた青

僕はこの青さを器にして
君を湛えていたいんだ

陽の光のような君ならきっと
この青さを薄めてくれる

そうだよ僕は
あの月から零れ落ちた青

僕はこの青さを失いながら
君を湛えていたいんだ

陽の光のような君の前でなら
泣いていてもいいんだよね

そうだよ僕は
あの月から零れ落ちた青

だけど僕は青さを手渡せる
大切なひとを見つけたから

だから僕は地上に降りた
君だけの月になるよ

だから僕は眠る君を照らす
君の月明かりになるよ

wind sleeve

ほら
風が出てきたよ

ねぇ
この風はどこを通って
どこへ向かうのかな

僕は風を孕みながら
風に訊いてみたんだ

僕をすり抜けるこの風に
僕は何を運んでもらおうか

ほら
風が変わるよ

ねぇ
この風がいつか
君の住む街まで届くのなら

僕は風を孕みながら
風にお願いしたんだ

僕は僕の形を風に映すから
僕をそこへ運んでくれないか

すぐに悲しくなる彼女のもとへ
僕の形を届けてくれないか

bird in bosom

きっとあの時
僕の耳に聴こえたのは

君の胸のなかにいる
その小鳥の鳴き声だったんだね

だからなのかな
君が気になってしかたなかった

君の胸のなかにいる
小鳥の声をもっと聴きたかったんだ

寒くてずっと震えてた君に
僕はなにもしてあげられなくて

空を想う小さな翼の不安も
僕は受け止めきれていないけれど

その震える声質に載せられた
君の気持ちを感じていたいから

もう君を
聴き漏らさないように

君の胸のなかにいる
その小鳥が君をさえずるのを

君の胸に耳をあてて
もっともっと聴いていたいんだ