equinox

互いに手を伸ばしてみる
指先を触れ合わせてみる

僕らを外界と分かつ膜のかたち
そこを流れる感覚の波

感じかたの変わるところ
その距離を探していたんだ

手のひらを合わせてみる
手を握り合ってみる

ふたりの膜が触れ合って
静かに平面を構成する

安心ではなかったものが
安心のようなものに変わる

同調する感覚と
同調しない感覚

そのどれもが不快感を伴わず
責任は公平に分配されて

ちょうど中間に形成される
ふたりのあいだの分点

僕らを緩やかに分かち
互いの圧力で平衡を保つ膜

その平衡を大切にすることで
確かめられることがたくさんある

さまざまなもののあいだにある
さまざまなかたちの分点が

ふたりの分点を中心に再配置され
感覚の膜に投影されていく

僕らはただそれらを
見逃さないようにしていればいい

交わる感覚に澄まされながら
そっと感じていればいい

きっと大切にしていけるよ
僕とあなただけの分点

cerrillos turquoise

僕から零れ落ちたものは
きっと色彩だと思う

単一の色ではなくて
個体差のあるもののひとつ

ひとことでは表現できない
とても大切にしていた色を

痛みも感じないままで
僕は失くしかけています

零れてしまった色彩は
きっと温かくはないから

それを掬いとろうなんて
思わないでいてください

ただその両手の温度を
僕に示してくれるだけで

僕はきっとすこしだけ
よく眠れると思うから

その手に宿る温度が
きっとあなたを示す色彩

均一ではないその色彩は
そっと温かさを湛えていて

その不均一を恥じない青さを
信じてみたいと思ったから

その距離を色彩に
繋いでもらおうと思いました

僕の失くした色彩はまた
この背中に構成されるから

新しい色を加えながら
ゆっくり構成されていくから

いまはあなたの両手に宿る
あなたを示すその色彩を

穏やかさのなかにある
僕の知らない色といっしょに

ただそのままで
僕に見せていてください

百花繚乱

咲き誇ってるとか
失礼なこと言わないで

あたしはただ
咲いているだけだもの

集団を構成するものとしか
認識できないくせに

わかったようなこと
言わないでくれる?

いつもより何色の色味が強いとか
いつもと花びらの形が違うとか

品種の標準的な状態なんて
あたしには意味のないこと

咲くのが例年より早いとか遅いとかも
あたしの知ったこっちゃない

みんなで示し合わせて
それらしく咲いてるわけじゃないし

あたしはほかに
咲きかたを知らない

それで充分でしょ?
何か文句ある?

咲き乱れてるとか
勝手なこと言わないで

あたしはただ
咲いているだけだもの

ほかの色じゃない
この色をあたしは纏い

ほかの形じゃない
この形であたしを形作って

いまを刻むように
ただ咲いているだけだもの

ripple

水面を跳ねる小石と
水面に残るいくつかの水紋

どっちがあたしで
どっちがあなたなの?

ひとつめの水紋と
少し小さなふたつめの水紋

どっちがあたしで
どっちがあなたなの?

ふたつの水紋のあいだで
揺らぎ交わるたくさんの波

どこまでがあたしで
どこまでがあなたなの?

あなたにはきっと
見えていたのでしょ?

でももう
みんななくなっちゃったから

記憶を辿って
繋ぎあわせてるけど

見えなくなった小石と
もう消えてしまった水紋

どっちがあたしで
どっちがあなただったの?

reverberation

僕の空間に
吐息をひとつ

そっと響かせて
確かめています

少しずつ定位する
この音程は

僕の存在を示す
固有の音程

音の広がりと減衰は
僕に内在する

空間の形を示す
固有の残響

ねぇ
いまあなたには

あなたの音が
聴こえていますか?

自分の音に
耳を塞いで

ないものねだりに
なっていませんか?

ほらとっても
簡単なことだから

君の空間に
吐息をひとつ

そっと響かせて
確かめてごらん

少しずつ定位する
その音程は

君の存在を示す
固有の音程

音の広がりと減衰は
君に内在する

空間の形を示す
固有の残響

それが感覚における
自覚のかたち

寛容さにつながる
自信のかたち

ほらとっても
簡単なことだから

君の空間に
吐息をひとつ

そっと響かせて
確かめてごらん

ここ

僕の中心近くには
あなたのための場所があって

それは簡単に作ったり
消してしまったりできるものではなくて

あたりまえにあるようで
あたりまえではないもの

たぶんあなたにとっては居心地がよくて
決して譲ろうとしなかったもの

でもあなたはそこに
ずっといてくれるわけではなくて

気がついたらいなくなっていたり
真ん中にいてくれなかったり

上目使いで僕を見上げて
きょろきょろしていることもあった

あなたがいない日の
僕のその場所は空白になる

あなたが落ち着かない日の
僕の中心は振幅を見失う

それはあなたのだめだけの
ほかの誰にも埋められない場所

あなたのためだけの場所だから
ずっとここにいてくれていいよ

ただあたりまえじゃないことを
知っていてほしかっただけ

知っていてさえいてくれたら
さもあたりまえであるかのように

ずっとずっと
ここにいてください