nephrite

あなたの温度を
僕にください

その温度で変性する僕を
あなたに捧げます

ちょっと耳障りな
笛吹きケトルの音や

いつも通りの
ジャスミンティーの香り

乾きかけの髪が作る
かすかなウェーブが

いっしょに過ごした
時間のぶんだけ

少しずつ僕に
染みこんでいくから

あなたの温度を
僕にください

その温度で変性する僕を
あなたに捧げます

ちょっと手狭な
カフェ用のテーブルに

温めた牛乳と
深煎りのマンデリン

こぼれ落ちたパン屑を拾う
何気ない仕草が

いっしょに過ごした
時間のぶんだけ

確実に僕に
染みこんでいくから

あなたの温度を
僕にください

その温度で色を変える僕を
どうか見守っていて

いつも

あなたの温度を
僕にください

その温度で変性する僕の
そばにいてください

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blue toned kiss

色褪せない暖色の
思い出然としたセピア色の涙は

ただ止め処なさを湛えるから

僕はあのときの
そっと目を閉じた君を

青く青く封じ込めて

この想いを寒色の
虚空に耽る青色の道化師のように

涙ごとその色で染めてしまいたい

vorpal bunny

小悪魔なんて表現を
世界で初めて使った奴はきっと

こんな気分だったばずさ
今なら嫌になるほどわかる

え、嫌だなんて言ってないよ
そういうことは聞き逃さないなぁ

だからそんな笑顔で文句言うのは
反則だって言ってるじゃん、もう

そうさ僕は君に
首をはねられたのさ

この世のものとは思えないほど
まるっきり屈託のない笑顔で

君が喉元に突きつける
僕にとっては不自由な選択

答えはひとつだよ honey bunny
君を愛してる

笑ってる顔だったら
いくらでも思い浮かべられる

怒ってる顔だって
いくらでも思い浮かべられる

泣いてる顔は忘れない
泣かせちゃってごめんね、でもさ

笑っても怒ってもいない
ふつうの顔ってどんなだっけ、ねぇ

僕はそんな君に
首をはねられたのさ

その気まぐれをも愛するには
ちょっと修行が足りない僕だけど

そこがまた可愛いってのが
そりゃもう圧倒的な真実

認めるしかないよ honey bunny
君を愛してる

parity bit #2

「こっちとこっち、どっちがいいと思う?」
「どういう観点で悩んでるんだか、いちおう聞いておこうかと思うんだけど。」
「デザイン的にはこっちが好きなんだけど、色使いはこっちのほうが好き。」
「たまたまこの店には在庫がないだけで、こっちのデザインでこっちの色使いっていうのがラインナップとして存在する可能性は捨てきれないわけだけどねぇ。」
「でしょ。」
「ただねぇ。この辺の価格帯の服飾って、けっこう調べようがなかったりするわけでさ。」
「店員さんに訊いてもねぇ。せいぜい系列店の在庫くらいしかわからないだろうし。」
「そんなことでバイヤーさん呼んでもらうわけにもいかないし。」
「バイヤーさんにしてみたって、メーカー側の思惑についてはすべてを知ってるわけじゃないだろうし。」
「ま、現場で判断するしかないよねぇ。」
「だから悩んでるんじゃないの。」

そりゃそうだ。あたしたちにしても、あたしたち自身の思惑をすべて知っているわけじゃない。あたしたちの内部にメーカーカタログなんて存在しないし、もし存在したところで、印刷された写真ってのは少なからず色褪せるものだ。一年後に色彩の好みが変わっていない保証なんてない。

「気に入るかどうかの境目ってのは、どのへんにあるんだろうね。」
「元も子もないなぁ。」
「口に出して説明できる理由なんていうのはさ、便宜的なものにすぎないわけでしょ。大多数の選択肢の中から候補を絞り込むためには便利だけどさ。最終的な二択になった時点で、それらはまったく無力になる。」
「まさにそういう局面なわけなんだけどね。」
「うん。」

例えば異性の好みなんかでも、もともと優れた子孫を残すためのスキルとしてあたしたちの遺伝子に組み込まれていたはずなのに、もはや残っているのは動機だけで、スキルとしては空洞化してしまっているような気がする。物欲よろしく便宜的に絞りこんで、やっぱり無秩序に悩むわけだ。ま、動機が本能的なぶんいくらか純粋なものではあるんだろうけど。

「また変なこと考えてたでしょ?」
「いや、物欲と肉欲ってどっちが純粋なのかなとか。」
「いつものことだけど、よくそこまで脱線できるねぇ。」
「ま、脱線には違いないねぇ。」

そうだ。この場合、本能的であるかどうかは免罪符にならない。選択に臨む姿勢によってのみ、その純粋さは決定されるんだ。背後にある理由だの動機だのが問題なのではない。

「でさ。そのへんを踏まえてなんだけど。こっちとこっち、どっちがいいと思う?」
「いや、どのへんを踏まえればいいのかまったく判らないけど。こっちのほうが似合うんじゃないの?」
「じゃ、こっちにしようかな。」
「うんうん。」

他人の助言を受け容れる形で選択を行ったとしても、この子はそれ以上の責任を相手に求めたりしない。そういう了解があるから、似合うとか似合わないとかいったすこぶる無責任な助言が安心してできるわけだ。ま、そういう了解が相互にあるっていう了解が、また相互にあるっていう了解があってこその安心なわけだけどさ。

「あたしとしてはさ。理想的な宗教っていうのがもしあるとしたら、まさにかくあるべきだと思うよ。」
「というと?」
「たまに背中を押してくれるくらいで、あとはこれといって何もしてくれないくらいな。」
「そりゃそう思うけどさ。」

そもそも自分の責任の範囲について正しく理解してるひとは、特定の宗教にのめり込んだりしないものだ。あたしだって初詣に行けばおみくじは引くし、占いだって嫌いじゃない。縁起だってそれなりにかついだりするけど、かつがなかったからといって不安になるわけじゃないし、ましてや不安になりたくないがためだけに縁起をかつぐようなことはしない。

「商売にはならなそうだよね。」
「そうだね。」
「じゃ、買ってくるね。」
「うん。」