サカナノ

「あのさ。」
「何?」
「あたしのこと、どう思ってる?」
「好きですよ。」
「いや、そうじゃなくて。」
「いや、そうじゃないなら、そうじゃないって言ってくれないとさ。」
「ああ。」
「微妙に恥ずかしいのが、いちばん恥ずかしいわけだし。」
「うん。ごめん。」

「ま、いいとか悪いとかは別だけど。」
「うん。」
「素でやってるのか、自分を護るためにやってるのか判りにくいというか。」
「うん。」
「護るにしてもさ。無意識にやってるのか、わざとやってるのか判りにくいというか。」
「そっか。」
「多かれ少なかれ誰でもって話でもあるわけだけど。顕著といえば顕著かなぁ。」
「そうだろうね。」
「通常は問題ないんだけどね。」
「通常はね。」
「うん。そこそこの距離感ならさ。人間性を判断する材料はむしろノイズのほうに多く含まれているわけで。」
「うん。」
「そのレベルでの相性とか好き嫌いとかもあるし。」
「まぁね。」
「ま、好きなんだけどさ。」
「訊いてないけどね。」
「ただほら、特定のひとと、ある程度以上仲良くなっていく過程って話だったら、相手がその境界線上にかかったあたりで、必要以上に傷つけてしまう可能性が高いというか。」
「うん。」
「ほぼ確実に傷つけると思います。」
「だろうね。」

「でもま、この件に関しては、冷静に観察しにくい事情もあるんで。読み違えてるかもしれないんだけどね。」
「どうして?」
「好きだから。」
「いまのは、分かってて訊いたよね?」
「うん。ちょっと試してみた。」
「いや、不確定要素のある内容じゃないと思うんだけど。」
「あるよ。」
「あ。こっち側じゃないのか。」
「うん。」
「で、どう?」
「どうだろ。悪くないかな。」
「そっか。」
「うん。」

「まぁ、あれだ。」
「ん?」
「読み違えてはいなかったってことで。」
「うん。」
「恋なんてそんなもんだし、いいんだけどね。」
「魚の?」
「うん。魚の。」
「ま、お互いさまかなと。」
「魚の?」
「うん。魚の。」

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cabinet simulator

「おつかれさま。」
「あ、おつかれさま。奇遇だねぇ。」
「うん。」
「ん?奇遇じゃないの?」
「うん。」
「そっか。」

「ちょっとさ。何も言わずにいっしょにいてくれないかな。」
「あ、うん。」
「だめ?」
「あ、いいよ。大丈夫。」
「大丈夫の意味がわからないけど。」
「いや、こっちの内部的な問題でさ。いつもいっしょにいるみたいに、何食わぬ顔でいっしょにいるには、いろいろ切り替えないといけないでしょ。」
「そうだよね。」
「何も食っちゃいないわけだけどさ。」
「うん。割り切らないとね。」
「え。割り切らないよ。」
「割り切らないの?」
「切り替えるだけ。」
「うん。」

「ひとつだけ訊いてもいい?」
「何も言わないでって言ったじゃない。」
「いや、大したことじゃないんだけどさ。」
「なに?」
「頭を撫でられるのは嫌いなほう?」
「え。時と場合によるっていうか、相手によるっていうか。」
「ま、そうだよね。」
「何の確認なんだか。」
「ま、嫌だったら微妙に嫌そうにしてくれればいいよ。」
「うん。」
「じゃ、行こか。」
「うん。」

naltrexone

痒いのは君の内側

吐き出しても
吐き出しても
途切れない不快感

爪を立てて
掻いてあげる

痛むように
掻いてあげる

所以の判らない痒みより
誰かのせいの痛みなら

まるで他人事のように
八つ当たりだってできるよ

握り締めたままの不自由

振り払っても
振り払っても
緩まない拘束

そのロープを
切ってあげる

その身体ごと
刻んであげる

流れ出す紅い自由も
温度を失っているから

千切れたロープを握ったまま
そこで眺めていればいいよ

解決する気のない
不快を撒き散らし

拒絶する気のない
拘束に酔いながら

君を中心に回る世界が
遠心力で薄れていくのを

その位置に固執したまま
見失っていけばいい

それを苦痛だと思ってるのは
鏡に映る君だけだし

その鏡にその姿で映ってるのは
もう君ですらないからさ

笑わない君が笑う
君は君のようなもの中毒

s/n

右手を赤く
左手を青く

巻き上げた無酸素銅の
隙間に蝋を流し込んで

側頭骨に中指を押し当て
電流量を触覚に集中すれば

交錯する磁界が
僕の聴覚を破壊する

得られた空白のぶんだけ
僕は負圧になるから

ノイズの中を漂う
君の感情の成分を

帯電した空白で
引き寄せるように

元のかたちのまま
捕まえられると思うんだ

押し留めた負圧で
包み込むように

君のかたちのまま
そっと捕まえられるから

vaskyre

嫌われてるんじゃないかとか
避けられてるんじゃないかとか

そんな風に思われないように
気をつけようと思ってたけど

なんだか
うまくできなくて

それは嫌ってるわけでもなく
ましてや避けてるわけでもなく

逆の理由なんじゃないかって
不意に気づいちゃったから

ますます
うまくできなくて

あまり弾まない会話で
なんだか申し訳ないけど

まだ話していたいって思うし
また話したいとも思う

そんなことさえ
どう伝えたらいいか迷うくらいだけど

忘れていたいくつもの感覚や
使われなくなっていた感情を

君と共有した空気が
思い出させてくれたから

もしかしたら君は
否定するかもしれないけど

たぶん僕にとって
君は天使なんだ

君の光翼が僕に
なにをもたらすとしても

いまの僕にとって
君は天使なんだ