good while

話したいことがあったんだよ
つか聞いてほしいことがあったの

だからずっと捜してたんだよ
聞いてもらっといてなんだけどさ

ひとしきり話してひと息ついたら
なんだか安心して泣けてきちゃったりして

ひとしきり話すっていう手続きが
もしかしたら必要だったのかなって

そりゃね
思わなくはないけど
そんなの話す前からわからないし

だいたいひとしきりって思えるかどうかって
けっこう微妙なバランスなわけでしょ?

なんかさ
ひとりで自分の部屋にいてね
ふと何か呟いちゃったりして

その声の響きかたにすごく違和感があって
なんだかとっても悲しくなってきて

そういうときって泣いても悲しいだけだって
嫌になるほどわかっててさ

そういう涙とは違うわけでしょ?
って何の話してたんだっけ?

そうそう
なんでもよかったんじゃないって
話したいことはあったの

違うよ
別にどうしてほしいってことじゃないってば
たとえばだけどさ

あたしが泣き疲れて寝ちゃったとしたら
何も言わずに毛布かけてくれたり

目を腫らして起きたらありえないタイミングで
温かい紅茶とか入ってたりするでしょ?

いや
そうじゃないよ

そうしてくれってことじゃなくて
そういう種類の安心感っていうか

そういう特別ってことだと思うよ
ちゃんと説明できてないと思うけどさ

だから
そーゆうんじゃないんだって

わかるでしょ?
だからあたしここにいられるんだよ?

coandă effect

僕を僕たらしめている
僕らしさのベクトルが

君を君たらしめている
君らしさの曲線に沿って

その向きを変えたとしても

別に僕が僕らしく
なくなるわけでもないし

君が僕に何かを
強制したわけでもない

何も気にすることなんてないよ

僕がここにいること
僕のありようを渡すように

君はそこにいるよって
君のありようを撫でてあげる

それで方向が決まるのなら

それが僕にとって
いちばん迷わないかたち

それが君にとって
きっと居心地のいいかたち

交じり合うらしさのつくる
新しいらしさのかたち

甜甜圈

自分を探して
ぐるぐる回りながら

自分がいるはずの
中心に目を向けたのに

そこには何もなくて
途方にくれながら回る

甘くて口当たりのいい
ぽっかりと穴の開いた僕

型抜きすると
真ん中が余る

抜いた部分が
無駄にならないように

集めては
引き伸ばして抜いて

結局はまた
真ん中が余る

最後に残った
ひとつぶん未満の生地

味見用に揚げられて
真っ先に食べられる

存在を分けるのはいつも
そんなイス取りゲームさ

何かを探して
ぐるぐる回りながら

何かがあったはずの
中心に目を向けたのに

そこには何もないし
何を探してたかももう思い出せない

甘くて口当たりがいいだけの
ぽっかりと穴の開いた僕

eques

降りしきる粉雪に霞む
その姿を見失わないように

振り向く余裕さえなく
見知らぬ景色の中を

僕は進む
理性を引きちぎりながら

その背に揺られたいわけじゃない
手綱を引きたいわけでもないんだ

ただお前の眼に映るものを
その眼に映るそのスピードで

僕も見てみたいと思ったんだ
それだけなんだよ

降り積もる粉雪に残る
蹄の跡を辿るように

迷い込んだ森の奥
ぽっかりと開いた空間で

嘶きひとつ
お前は立ち止まった

そこで仰向けに横たわってるのは僕で
この空間を僕は知ってる

見上げる僕の眼に映る
見下ろす僕の眼に映る僕自身の記憶

そうか僕はここで生まれたんだね
やっと理解したよ

さよなら
白く染まる僕の世界

ただいま
白く染まる僕の世界

fuzz ball

打ち消しても
打ち消しても
増え続ける闇の光球

照らそうとするものを
喰い散らかしては
分裂を繰り返す

感覚を残したまま
存在を失う手指

神経を切り離す直前
垣間見えた思考

わかったよ
たしかに望んださ

これがその報いなら
潔く受け容れるけど

まだひとつだけ
できることが残ってる

散らかした断片さえ
嘗め回しながら
増え続ける闇の光球

僕に残る最期の光
それすら呑み込んで
闇そのものになるのなら

僕を示す最期の断片
その血の最期の一滴を
口角から滴らせ笑うのは

顔を持たないお前じゃない
わかってるんだろ?

無の近似値でぐるぐる回りながら
存在とエネルギーを失う茶番だよ

僕は僕を喰って僕を嘲笑い
ありもしない存在を手に入れたんだ

esquire

その艶やかな首筋に
僕の指が馴染むように

ただ君に
そっと触れる

君に積もる憂鬱を
この手に拭い取るように

君の髪を
そっと撫でる

惑う君の逡巡に
この鼓動を繋ぐように

ただ君を
胸に包む

深くなる夜の音が
君を苛まないように

君と夜を
抱いて眠る

iroquois

「何か?」
「あ、なんでもないです。」
「そう。」
「いや、なんでもなくはないです。」
「どっち?」

「誤解を恐れずに言うと、見とれてましたというか。」
「誤解のしようはないと思うけど、理解しがたいなぁ。」
「そう?」
「そういう要素が見当たらない。」
「いや、たぶん要素の問題じゃないと思うんだ。」
「んじゃ、単語の選択を誤ってないかなぁ。」
「そうなんだけどさ。」
「だけど?」
「よさげな単語が見当たらなかったんだよ。」

「少なくとも外見的特徴云々じゃないってことはわかったというか。」
「うん。」
「そっちには食指が動かないってことでしょ?」
「いや、そうじゃなくて。」
「そう?」
「てか、食指ってどうなのよ?」
「んま、適切じゃないのはわかってるけどさ。」
「でしょ。」
「そこで微妙に赤面するのはどうかと思う。」
「なんのテストなんだか。」
「いや、試されるのは好きじゃないんで。」
「だよね?」
「試してないよ、たぶん。」
「たぶん、ね。」

「で、何の告白だっけ?」
「いつの間にそんなコーナーになったんだ。」
「違うことにしとく?」
「違わないよ。」
「でしょ。」
「違うって言われると激しく抵抗したくなるのはなんでだろ。」
「それを訊きたいのはこっちなわけで。」
「そうなんだけどさ。」
「うん。」

「もう何を言っても説得力なさそうな展開だしなぁ。」
「付加価値もなにも。」
「そうだけど、もう直球もなにもさぁ。」
「そうだよね。」

「誤解を恐れずに言うと、好きですよ。」
「誤解のしようはないと思うけど、理解しがたいなぁ。」
「そう?」
「そういう要素が見当たらない。」
「いや、たぶん要素の問題じゃないと思うんだ。」
「んま、要素の問題だったらちょっと嫌だけど。」
「んま、なくはないんだけどね。」
「そう?」
「やっぱり説得力ないよ、これ。」

「で、このあと食指の話だっけ?」
「やっぱそっち行くんだ。」
「いや、流れ上そういうことかな、と。」
「何の流れなんだか。」
「で、そこで微妙に赤面するのはどうかと思う。」
「つか、試されるのは好きじゃないんだよね?」
「試してないよ、たぶん。」
「そう?」
「たぶん、ね。」

guar gum

楽しい時間は
あっという間に過ぎる

それだって嬉しいさ
君とだったらね

でも僕は君の時間を
ゆっくりにしたいんだ

ちょっと不満げな
君と過ごすそんな昼下がり

おいしい紅茶のお店を
見つけたよって僕が言ったら

それは喫茶店じゃなく
葉っぱ屋さんのことで

試飲用の席で過ごす
新しい日常のシミュレーションも

君が向かいにいるから
成り立つ話なわけでさ

いつもの雑貨屋さんに寄ったら
よさげなカップが入ってそうな

根拠のない予感だって
たぶん君のおかげだから

まだ眩しい角度の日差しに
手をかざしたりしながら

いつものお出かけコースを
手をつないで歩こ

ひさしぶりになにか
焼いちゃったりしましょうか

小麦粉とか無塩バターとかも買って
手をつないで帰ろ

そんな楽しい時間は
あっという間に過ぎる

それだって嬉しいさ
君とだったらね

でも僕は君の時間が
ゆっくり流れてるときの

ちょっと不満げな
君といっしょにいたいんだ

この紅茶が香る部屋で
オーブンからもれる甘い香りに

気づかず緩んでる
君の口もとを眺めながらね

answer

会ったことがあるわけじゃないし
交わした言葉だってそんなに多くないし

まだ知ってることも少ないっていうか
ほとんど何も知らないわけで

見透かされてるような気がするってのは
半分だけ当たりかなぁとか

簡単に言っちゃうと
あなたはわたしに嘘をつけませんってこと

嘘然とした嘘をつくようなひとじゃないのは
わかってるんだけどね

言いたいことがあって
口をついて出た言葉がそのままじゃなかったときとか

たぶん言葉ごしに
言いたいことのほうを拾えるんじゃないかってこと

どうしましょうって言ったのは
それが諸刃の剣みたいなものだってわかってるから

言いたいことがあって
あえてそれを伏せておきたいようなときでも

それを言葉ごしに
拾ってしまう可能性があるってことで

泣きたいのに泣けないようなときに
どうしたら泣いちゃえるかわかったとして

泣いちゃったときに
そばにいたりできないんだとしたら

そのスイッチを押しちゃうことが
優しいんだか優しくないんだかわからないから

中途半端な距離感の謎かけみたいな言い回しで
困らせちゃったんじゃないかと思うんだけど

だいたいそんな感じです
最後につけ加えておくならば

ぶっちゃけ感覚の相性みたいなもんだから
誰でもってわけにはいかないんですよ

di

心配されることで
君がその傷を広げるなら

すぐにも話しかけたい気持ちを
僕は押し止めて

効力を失わせた言葉を
君の夜に届けるから

どうかその痛みを
ひとりにしないであげて

降り積もる灰のような
優しさを君にあげるよ

この手の温度さえ
君を痛めてしまうのなら

僕は僕の体温を
ぜんぶ燃やし尽くして

熱量に干渉しない抜け殻を
君の夜に届けるから

どうかその震えを
ひとりにしないであげて

降り積もる灰のような
温もりを君にあげるよ

なにも考えなくていいよ
怖いことなんてないよ

涙を流してることさえ
忘れちゃっていいよ

降り積もる灰のように
君の感覚を適度に塞ぐから

降り積もる灰のように
いまはただ眠るといいよ