blue above

君の見ている青を僕は知らないけど
きっと僕は知らないままでいい

僕の見ている青に君を染めるつもりもないし
無理に混ぜ合わせてみるつもりもない

交わらない青と青の差分が
君らしさだったり僕らしさだったりするわけだし

そのまま見ることができないから
知りたい気持ちがずーっと続いていくわけでしょ

君をとりまくいろいろなことが
君の言葉に変換されて並んでいくのを

僕は空を見上げるように眺めながら
その向こうにあるだろう君の青を思い浮かべている

大切なのに掴みどころのないものを
無理に掴もうとしてかたちを変えたくないからさ

君の見ている青を僕は知らないけど
君を通して見える青をこっそり重ね合わせながら

立ち止まるのを忘れそうな君といっしょに
いつか空を見上げてみたい

ひどく遠回りしがちな君のとなりで
ゆっくり空を見上げてみたい

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やさしさのかたち

やさしさがなんでてきてるかなんて
僕にはよくわからないけど

決まったかたちなんてないんだろうなって
なんとなく僕は思っていて

たとえば君の帰るところに
やさしさを置いておきたいとして

それをどんなかたちで届けたらいいか
僕にはよくわからないから

ちょっとした会話のすきまの
とりたてて意味のなさそうな間投詞なんかに

やさしさのかたちを探している
君にそっと寄り添えそうなかたちを

やさしさの材料になりそうなものが
僕のなかにあったとして

そのままじゃ役に立たなそうだって
とりあえず僕は思っていて

たとえば僕と君のあいだを
やさしさでつないでもらうとして

ひとつひとつをどんなかたちで浮かべたら
君につながっていくんだろう

ちょっとした気持ちをのせるために
君がなんとなく選んだ言葉をながめながら

やさしさのかたちを探している
君をそっと受けとめられそうなかたちを

きっと正解なんてなくて
でもたぶん不正解はあって

言葉にのりきらなかった気持ちも
行き場を求めてたりするんだろうし

どんなふうに応えたって
取りこぼしはいくらだってあるだろうけど

僕なりに言葉をつなげて
たよりないかたちで漂わせてみる

君のかけらを拾い集めながら
ゆるやかに君を探す僕のきれはし

ふたりぶん

半熟卵なんて
うまくいったことないよ

ひとりぶんだけ作ったって
いつも失敗ばかりさ

今日はたまたまうまくいって
おいしくできてよかったけど

どうしてうまくいったか
なんとなく僕は知ってる

失敗したからって
きみは怒ったりしない

うまくいったからって
ほめてくれるわけでもない

おいしくできるって
なぜか信じててくれて

待ってましたとばかり
おいしそうに食べる

だからだと思うんだ
きみのぶんもいっしょに

ふたりぶんで作るから
きっとうまくいくんだ

期待してくれていて
期待しすぎるわけでもなく

そんなきみのぶんだから
きっとおいしくなるんだ

ブリのアラの煮物なんて
作ったことなかったよ

煮込んだ大根なんて
そんなに好きじゃなかったし

でも君が目を輝かせて
魚がいいって言うから

何の根拠もないけど
うまくいきそうな気がする

アルミ箔を落として
じっくりと煮込む

きみは僕の手際を
たのしそうに見てる

時間と手間を煮詰めて
おいしさに変える

そんな魔法だって
きみがいなくちゃつかえない

だから感謝してるんだ
僕の食わず嫌いも

きみの少しのわがままで
ましになったりするんだ

あたりまえの日常を
あたりまえにしないように

そんなふたりぶんだから
きっとおいしくなるんだ

たぶん記念日

君のせいじゃない
君のせいじゃないよ
君のせいには違いないけど
それは君が君だからってことで

目をあわせていられた時間なんて
ほとんどなかったし
その奥で揺れ動いているものに
気づくような余裕もなかったし

持て余すくらいに
ただ照れくさくって
温度の切れ端だって
手渡せやしなくて

この照れくささの質が
大切にしたいってことそのものだって
どう伝えたらいいものなのか
思いつかないままで

僕の大切にしたいは
好きとほとんどいっしょで
それがほぼ等価であることには
いい面と悪い面があって

そういうことに巻き込んでしまって
いいものかどうかとか
それですこしばかり
悩みごとがふえたとしても

それは君のせいじゃない
君のせいじゃないよ
君がそこにいるってことを
特別に思ったってことで

君のせいじゃない
たぶんあとになってみれば
君のおかげってあたりに
落ち着くんじゃないかと思ってる

candlestick

「眼鏡でも失くしたの?」
「あたし眼鏡なんてかけてないし」
「知ってる」
「そんなに眼鏡探してるような顔してた?」
「してたよ」
「そんなにきょろきょろしてたかな」
「きょろきょろはしてなかったけど」
「してなかったよね」
「してなかったしてなかった」

「つか、眼鏡探してるような顔ってどういうのよ?」
「このへんにあるはずなのになー的なね」
「このへん?」
「このへん」
「どのへんよ?」
「だいたいこのへん?」
「なんで半疑問なの」
「だってほら、探しものなんて主観的なものだからさ」
「誰か連れてきて視点を変えれば見つかるみたいな話?」
「それが移動しないもので、かつ目に見えるものだったらそうだね」
「そうじゃないと見つけられないじゃない?」
「そりゃ、見つけようとしちゃってるからね」

「見つからないの?」
「そもそも見たことないわけじゃない?」
「そうだけどさ」
「同時に移動してるか交互に移動してるかどっちかなんだけど」
「近づいているとは限らない?」
「相手がどう移動したかわからないというか」
「うん」
「そもそも移動前にどこにいたかもわからないんだ」
「見たことないからね」
「座標系がいっしょっていう保証もない」
「ずいぶん絶望的じゃないの」
「でもま、みんなそうだし」
「それでもみんなうまくやってる?」
「うまくはやってないだろ」
「そうだよね」

「見つけたって言い張ったり」
「見つからないって怒ったりね」
「そういうの得意じゃないんだ」
「うん、そういうのは得意じゃない」

「でも、わかることもある」
「なに?」
「おかしいなー、このへんにあるはずなのになー的なさ」
「ああ、そういうことか」
「でもま、それしかわからないし」
「うん」
「それがどのへんを指すのか具体的にはわからないからさ」
「なんとなくそのへんに現れることしかできないと」
「そういうこと」
「そういうことね」

「で、このへんでよかったのかな」
「ま、いいんじゃない」
「だいたい?」
「ま、だいたいね」

blister

地面なんかありゃしないんだ
君の想定した君の外郭に

ただ振り落とされないように
ふちにしがみついてるだけさ

いいよ君はそのままで
せめて僕がここにいるうちに

君のかたちを押し出した
その透明な棺に僕を

閉じ込めて blister
見ないふりで blister

遠ざけて blister
放り投げて blister

…blister

ずっとぶら下がってるんだ
君の規定した君の時間が

始まる前から剥がれ落ちる
君の破片の死角にいたさ

手を伸ばせば届くんだ
それだってわかってたけど

君のかたちに触れたとき
この指先の温度が君を

壊すから blister
拒むように blister

遠ざけて blister
封じ込めて blister

…blister

君のかたちが揺らぐなら
その一度きりの言葉を僕に

囁いて blister
君の声で blister

引き裂いて blister
君の爪で blister

ばら撒いて blister
君のそばに blister

…blister

ad splendor

傷を重ね
透明度を失っていても

君の内側で
回転し続けているもの

それが運命
あるいは等間隔に刻まれた記憶

それさえも
僅かずつ劣化し続けるけれど

細かな傷が
立ち込める霧のように

君を隠しても
巻き取られ続けるもの

右と左
巻き終わっては反転する記憶

その帯域幅が
失われてしまう前に

今をなぞって
周波数に変えよう

次に反転して
表を向いたら

いちど振動に戻して
また記録しよう

sandman

失くした砂粒の
たったひとつを

崩れ落ちる砂の
指でなぞるように

探し出す儀式
あるいはただのゲーム

止まった時間と
止められない時間

コマ送りの現実
違和感を埋める違和感

空っぽになった
たったひとつの

失くした砂粒を
探し出す儀式

空っぽになった
砂の涙を流しながら

翹翹板

すれ違っているって
思っているかもしれないけど

まっすぐに伸びた
同じ面のうえにいるよ

手のひらでは
感じにくい質量とか

いつかのための
地面の蹴りかた

不安に埋もれない
浮遊感とか

そういうものを
やりとりするための

支点はいつだって
ふたりのあいだにあって

取っ手のついた
同じ面のうえにいるよ

unnamed

「出会ったばかりだっていうのに、彼女の何がわかるっていうんだ?」
「愛してますよ。それで充分でしょう。」

男が言葉に詰まっている隙に強引にドアを閉める。事情は知らないけど、たぶん奴にはそれを言う資格はない。しばらく待って、ドアの向こうにひとの気配がなくなるのを確認してから、振り向いてみる。

「…ごめんなさい。」
「ごめんなさいかどうかはこれから決まるんだから、別に気にすることでもないさ。」

ひどく小声だし、涙をいっぱいに溜めた目でこっちを見てくれるわけでもないし。こういうときは名前でも呼んだらいいんだろうけど、名前なんかまだ訊いちゃいない。ま、いっそ泣いちゃったほうがいいんだろうし、こっちだって現実としての距離感とか掴まないときついから、頭を軽くぽんぽんと叩いてみる。

「とりあえず、世の中みんなが自分より偉いとか自分より優れてるとか、そういうのやめようぜ。じゃないと僕が君を護れない。」
「…うん。」

それこそ堰を切ったように泣き出した彼女の涙を、僕はよく知ってる。右手に残ってる感触にも特に違和感はない。これが運命だとしたら、掴んでいい運命だろう。あとは抱きしめるだけ。それが始まり。母性本能のようなものに半分身をゆだねて彼女のほうに手を伸ばしながら、それでも僕はどこか迷っていた。

「…ありがとう」

聞こえたんだ。まさに彼女の肩に触れようとした瞬間。ほんとに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声だったけど。それですべてが繋がった。妥協でもなんでもなく、これでいいんだ。もう迷わない。僕は初めて彼女を抱きしめた。できるだけ強く、できるだけ優しく。

「急にどうこうできるとは思わないけど、僕は君のその怖がりをなんとかしたいと思っている。」

頷く隙間なんか残しちゃいないけど、彼女が確かに頷いた気がした。