zipper

背中のジッパーを開けて
君を取り出そう

絵に描いたような空気
ぬるま湯の世界で

君がふやけてしまうまで
そばにいよう

時間ごと壁に打ちつけた
時計が動き出すまで

背中のジッパーを開けて
君を連れ出そう

絵に描いたような空
君の望んだ世界が

君を手放してくれるまで
そばにいよう

壁に打ちつけた時間なんて
ほんとはなかったんだ

つないだこの手以外は
ぜんぶ嘘さ

全てが真実だったら
この手が嘘さ

ひっぱり出されてしまえば
簡単なことなんだ

大切に握りしめてたものも
否定して捨ててしまったものも

手放してしまえば
自分と同じように

時間とか空間とかは度外視で
ただ漂っているだけなんだ

ぜんぶ手放してしまえばいい
いつの間にかその手にある

おそらく「なにもない」という名の
かけがえのない存在しないものを

君がその手にするまで
そばにいよう

君が君のかたちになるまで
手をつないでいよう

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iron gall

かりそめの青を
君に注ぐ

涙のかたちに滲む
時間を涙ごと

あるいは涙を
時間ごと固着させて

染み込んだまま
色を変える

君を寸断する
不自由を自由ごと

あるいは自由を
不自由ごと固着させて

消えない漆黒を
君に刻む

thrust angle

とっておきのバターと
焼きたてを冷凍した食パン

とっておきすぎて
冷え切ったバターを少し温めて

オーブンだってしっかり予熱して
準備万端整えても

せっかくこんがり焼けた
トーストの表面を

突き破らないように
そっと馴染ませるには

ちょうどいい角度の
ナイフが必要なんだ

そう君が抱えてる
気持ちだってそうさ

色あせないように時間を止めた
これから思い出になるはずの場面

頼りない部品を積み上げて
熟成させた気持ち

小さな胸に
ぎゅうぎゅうにつまったとっておきを

ただまっすぐに
差し出しちゃいけないよ

ちょうどいい角度のナイフに
ちょこんと載せて

滑らせるように
そっと渡してごらん

こんがり焼けた
表面で溶け出しながら

ふわふわの中身に
ちゃんと馴染むはずだから

glance plus

視界を平坦に

少しだけ出っ張ったところを見つけて
そっと撫でる

あんまり撫でるとそれさえも
平坦に埋もれてしまうから

気のないふりをしながら
そっと撫でる

色彩を平坦に

少しだけ色づいたところを見つけて
そっと撫でる

あんまり撫でるとその色も
きっと滲んでしまうけれど

手のひらに残るそんな
他人事のような

色彩を僕は
繋いでいきたいんだ

気のせいで済ませてしまえば
気にならないような

感覚を僕は
繋いでいきたいんだ

therefrom

平坦で見通しのいい道は
なんだか不安になるんだ

何時間か歩いただけじゃ
なにも変わらないような気がするから

曲がりくねった険しい道は
きっと挫けそうになるんだ

山がそこにあるってだけで
登りたいなんて思うやつは限られてる

適当に登ったり下ったりしながら
歩いていければいい

分かれ道で迷ったら
コインでも投げればいい

道端に花でも咲いてたら
立ち止まって眺めればいい

どっかで猫の鳴き声がしたら
道なんか外れて探しにいけばいい

距離とか時間なんてのは
存在にくっついてくるもんだ

そこにいるってことだけ
ちゃんと確認できればいい

いつか「ついた」と思った場所が
目的地だったってことにするさ

そこから大雑把に逆算して
君に会いに行くよ

まにまに

「最近さぁ」
「ん?」
「雨宿りとかしてる?」
「それはこう、新しい挨拶かなんかなの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「うん」
「したほうがいいよ、と」
「いやだからそれはこう」
「ん?」
「新しい宗教かなんかなの?」

「たとえばほら、ヨットがさ」
「うん」
「そこそこ逆風でも進めるっていうじゃないの」
「いうね」
「あれがよくわからない」
「いやいや」
「いや、理解はしてるんだけどね」
「そうだろうね」
「わからないんだよねぇ」
「んま、わからないでもないけど」
「でしょ」
「本位じゃないだろうねぇ」
「んま、交通機関としてのプライドとかあるにしてもさ」
「うん」
「ひとよりは風に近いと思うんだよね」
「存在としてね」
「だから、ヨットなりでいいんだよ」
「うん」
「風向きが変わるときは、そこそこの確率でなにか言いたいんだと思う」
「風がね」
「うん、でも風語は難しいからさ」
「ヨットに翻訳してもらおうと」
「うん」
「まっすぐ進むだけじゃわからないこととかあるよね」
「わからないというか、気づかない」
「そうそう」

「だからさ」
「うん?」
「雨宿りはしたほうがいいと思うよ」
「あ、そうか」
「そう」
「ま、それはそういう流れなんだよね」
「逆らわないことで、見えてくるものもある」
「うん」
「だから傘はカバンに入れとくことにしてる」
「なんの話?」
「流れによっては持ってないふりもできるでしょ」
「それは逆らわないことになるの?」
「んま、だいたいまにまに」
「なんのまにまになんだか」

「なんなら君のまにまに」
「ま、雨がそう言うんなら仕方ないけどね」
「降らないかなぁ、雨」
「いや、それ言っちゃダメじゃないの」

fluorite

君らしさという
その色彩を

割れないように
そっとあたためて

君のなかに眠る
君を確かめよう

君がまだ知らない
ちっちゃな君が

君のなかには
まだいっぱいいてね

ときどき見上げたり
またうつむいたりしながら

君になりたくて
君と手をつなぎたくて

うずうずしながら
ずっと待ってるんだ

だから君を
包んでいる君を

割れないように
そっとあたためて

君と君をもっと
仲良しにしてあげよう

exodus

君はオアシスなんて
ないんだって言った

もし見えたとしたら
それは蜃気楼だって

だからこの左手には
たったひとつの水筒だけ

この生ぬるい水ならちゃんと
現実とつながってるから

そして右手には君の
ひどく乾いた手をとって

砂の襞を縫うように
ゆっくりと歩いていこう

そうオアシスなんて
ほんとうはないんだよ

蜃気楼なんて見えない
だからだいじょうぶさ

身体に染み渡っていく
生ぬるい水の一滴だけ

信じていればいい
いまはそれだけでいいんだ

砂まみれの乾いた手が
体温を伝えてくれなくても

ちょうど水筒ひとつぶんだけ
僕らはつながっているんだから

soda float

現実が自分の
意思とは無関係に
手の上を滑るのを

君はずっと嘆いていて

ただ無造作に
時間軸上に並ぶ
役割を持った自分が

きっと他人事のようで

忘れられた
飲みかけのソーダ水の
炭酸が抜けるように

宙を舞う思いだけは

押し留めたくて
伸ばしたその手が
空を掻いてしまうのを

もう見ていられないから

甘さだって
感じないくらいに
よく冷えた僕の思いを

君にそっと載せてみよう

僕の思いが
少しずつ溶け出して
君を絡めとるように

君を留めていけたらいいな