間接照明

僕は君に背を向けたまま
ただ君を照らしましょう

たいした光量でもないのに
君の影を際立たせてしまうくらいなら

僕は壁や天井に向かえばいいんだ
その白さに身を預けてしまえばいい

誰も僕を照らさなくても
誰も僕に影を落とさなくても

僕は君に背を向けたまま
ただ君を照らしましょう

その影の柔らかさに
君が僕を忘れてしまうように

君の息遣いが少しでも安らぐのなら
ゆるやかに湾曲したあのシェードの向こうで

僕は君に背を向けたまま
ただ君を照らしましょう

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物心ついたときにはすでに
僕の手にはひとつの鍵が握られていて
僕は扉を開けることを覚えてしまった
それがたぶん間違いのはじまりだったんだと思う

見回せば開け方のわからなくなった扉はそこらじゅうにあって
使い途のわからない鍵はそこらじゅうに転がっていたから
僕は必死になってそれらをかき集めていった

鍵だけじゃない
余ってしまったパズルのピースや割れてしまった何かの欠片
それ単体では役に立たないものですぐに僕の両手はいっぱいになったけれど
僕はそれらを捨てることができなくなっていたから
僕はこの身体にそれらを埋め込んでいくことにした
もともと僕の身体を構成していたものを押し出しながらね

身体の大半が置き換わったあとだったんだ
僕がそれに気づいたのは

開けてはいけない扉があるってこと
完成させてはいけないパズルがあるってこと
埋めてはいけない隙間があるってこと
つまり実際にはそれらのほとんどが本当に役に立たないってことにね

何の役に立つかわからないものを何の気なしに拾ったひとが
それを必要としてるひとに出会うことを
奇蹟とか運命とか言うんでしょ?
そう、それがたぶん本来的な形なんだ

何らかの意図を持ってかき集めれたそれらはすでに穢れているの
そんなものは誰も求めちゃいないからね

その扉の鍵が僕の中に存在するとしても
僕は何食わぬ顔でその扉をノックすることを覚えたよ
その鍵が僕の皮を突き破って現出することに怯えながら
それを隠すために僕は僕を最適化していった

やわらかい笑顔
おだやかな口調
タイミングの適切な相槌
コントロールされた追従性
仕組まれた包容力

それでもいいって何度も思おうとした
ぜんぜん何の役にも立たないよりはいいって思って生きてきたよ

僕は完全に封印されてはくれない
それらは戻るべきところに近づくとそこに戻りたがるから
こんな薄っぺらな皮なんてすぐに突き破りそうになる
もともと寄せ集めの身体なんだ
尖ったものだって多く含まれてる
少しでも気を抜いたら僕は支配されてしまう
いちばん近くにある開けてはいけない扉を開けてしまう
拾った鍵になんか負けちゃいけないのに
僕がしっかりしてないといけないのに

結局は最適化された僕ができることなんかより
僕がそれらを保持し続けている危険のほうがはるかに多い
それなのにどうして僕はひとの形をしてるんだろう
どうしてこの形を保ってなくちゃいけないんだろう

たぶん意味は失われているんだ
どう考えてもひとりよがりの無駄な抵抗
そんなことでひとを危険に晒すなんてよくないことなのに

原初の鍵を僕に与えたのはいったい誰なの?
ううん、もうそんなことはどうでもいいんだ
できることがあるってことに甘えた僕がいけないんだ
それを振り払うことができなかった僕がね

捨ててしまうことはできないんだから
ずっと抱えてるしかないんだ
これらを世の中から遠ざけておくことしか
もう今の僕にはできないんだ

溢れ出した真実なんていつものように固めて飲み込んでしまえばいい
また何事もなかったように笑ってればいい
できることだけ作業のようにこなして
あとはひとりで膝を抱えてればいい

いつもそう思うのに
どうして諦められないんだろう
何を諦められないのかだってぜんぜんわかんないのに

わかってるのはひとつだけ
寂しいなんて口に出して言う資格はないってこと

いいかげんひとりでいることくらいは諦めろよ
どうしようもないんだからさ

doubt

嘘を宣言すればそれで終わり
ひとつ指を鳴らすだけで
僕の中にあった僕のようなものはあっさり消失する

ふざけた外殻は乾いた砂になって内側へ崩れ落ちる
内側そのものは存在を失いながらより内側へと収縮し
そのもっとも内側で空間を捻じ曲げて
一瞬だけ虚無への扉を開くから

砂粒ひとつも残さずに
僕は消え去ることができるだろう

その裏側へ
見えない世界へ
感じない世界へ

伏せたまま捨てられたカードなんて怖くなんかない
いくらでも呑み込んでやる

積み重ねた虚像たちよ
せめてその身で消失の扉を呼んでみせろ

さあ僕よ
僕を指差し高らかにコールしろ

ダウト!

オブラート

うだうだやってんのは性に合わねえんだよ

誰の正面にも立たず
自分の正面には誰も立たせないまま
そのままいつまで生きるつもり?

斜に構えていることしかできないのに
それが自分だって言い張るんなら

それも含めて自分だからっていう自分たちに
せっせと食われていけばいいさ

ひとおもいになんて口だけさ
自分じゃ何もできやしなんだから

君を殺すのに凶器なんてもう要らないだろ?
存在だけ優しげなこいつがお似合いだぜ

吐き出せもしない
飲み込めもしない
大量のオブラートを喉の奥に詰め込んでやる

君の嫌いな真正面から
君の嫌いな最高の笑顔をくれてやるから
焼き付けて逝くがいいさ

考えてる暇なんてねーよ
優しくなんかないって言ったろ?
目を見開いたまま息絶えるがいい

そんなに難しいことじゃないよ
悲しさは確かにそこにあって
自分と似た悲しさは見えるはずなの

唐突に悲しくなってしまうようなとき
自分とその悲しさを結ぶものが見当たらないのに
ただ悲しさだけが存在するようなとき

特別な感情が発生していないのに
唐突に涙が流れるようなときはね

それは自分の中にある悲しさではなくて
誰かの悲しさなのかもしれないってこと

それは自分の涙ではなく
誰かの涙かもしれないってこと

泣きたい気分でいっぱいなのに
いろんな事情で泣けないひとはいっぱいいてね
行き場のない涙は悲しさの糸を伸ばしながら
出口を求めて空間を漂っているの

そんなに難しいことじゃないよ
悲しさは確かにそこにあって
自分と似た悲しさは見えるはずなんだ

出口になりましょう
糸を手繰りましょう

悲しさを重ね合わせることは
傷を舐めあうことではないから

悲しさが重なり合うとき
そこに優しい気持ちはきっと生まれるからね

出口になりましょう
糸を手繰りましょう

存在

だいじょうぶだよ
あなたはちゃんとそこにいるよ
僕には見えているからね

あなたが求める呼び合えるべきものと
呼び合えない隙間に涙は溜まっていくの
たぶんあなたの中にあった涙が僕を呼んだんだ
その思いの強さを僕は知っているからね

あなたが誰かにとって何なのかとか
あなたを縛る言葉を今だけは無力にしてあげる

存在は呼び合えるものなの
あなたがあなたとして存在する限り
きっといつか思うように呼び合えるからね

僕の存在を貸してあげる
僕らを繋ぐ空気に載せてそっと送るから
目を閉じて、ゆっくり息をしてね
今はもうすこし眠るといいよ

あなたの思いはいつもそこにあるから
強く誇らしげに咲いているから

だいじょうぶだよ
あなたはちゃんとそこにいるよ
僕には見えているからね

useful dead

それでいいよ
僕を使っていいよ

隙間埋めるだけだっていい
一番なんかじゃなくってもいい
道具みたいに使っていいよ

ちょっとでもさみしくなくなるんなら
ちょっとでもあたたかくなるんなら

僕の気持ちなんて彼方でいいよ
きっと今だって彼方から人事のように僕を見てる
そんな僕なんて放っておけばいいんだ

触れていいよ
壊したっていい

あたたかささえいらないのなら
標本のようにただそばにいようか?
ホルマリン漬けで膨れ上がるのも悪くないさ
白くなるがまま白くなればいい

それでいいよ
僕を使っていいよ

なんだって見えるし
なんだって聞くよ
なんだって吸収してみせるさ

それで僕が僕の形を保たなくなっても
気にしないでほしいぶんだけ取ればいいよ
あとのことなんて心配しなくていい

隙間埋めるだけだっていい
もう特別なんかじゃなくってもいい
ただの道具みたいに使っていいよ

ちょっとでもさみしくなくなるんなら
ちょっとでもあたたかくなるんなら

それでいいよ
僕を使っていいよ