death drive

ひとつの時間に
あまり長くは留まれないんだ

君の願いが
いつか叶うまで

あるいは叶わないことが
確定するまで

僕はたぶん
この時間にはいられないから

いくつかの未来と
それらが君にもたらすものを

受け容れやすい形と
受け容れにくい形にして

君の近くに
置いていくことにするよ

僕がいつ
消えてしまってもいいように

君はきっと
見向きもしないだろうけど

その種が芽吹き
実をつけるころには

君はまた
空腹のふりを始めてるだろう

そのときにでも
気づいてくれればいい

僕はそもそも
こっち側の生物じゃない

感情の隙間を
埋めるように寄生しては

確かめた繋がりと
安心に押し出されるように

あるべき場所の
少しだけ手前へと戻っていく

僕が何を
愛おしんだとしても

すがるように
存在をなぞったとしても

それが唐突で
なくなるころには

僕はもう
ここにはいないんだよ

そして僕は仄暗い
ひとつ前の世界を進んでいく

君の歪みが開く
次元の裂け目の向こう

どこかで見たような
まるで別の時間で

自分が存在する
理由を消し去るために

あのね

ゆっくりでいいと思う
ゆっくりがいいと思う

もう壊れたりしないって
ちゃんと信じられるよ

だけどどうしてだろ
すごく会いたいんだ

つかまえてなくたって
そっと手をつなぐだけで

いなくなったりしないって
わかってるんだけど

ぎゅーってきつく
抱きしめていたくなる

何もしなくたって
何も言わなくたって

あなたはたぶん
安心してくれるし

僕がそれでじゅうぶん
しあわせだってことも

これでもかってくらい
想像できちゃうんだけど

思い浮かべられないことがあるって
気づいちゃったから

僕はまだ
あなたの笑顔を知らないんだ

泣き腫らした目で
ギリギリの体温で

ありがとうって笑う
そんな笑顔しか思い浮かばなくて

あなたのいちばんの笑顔はいつも
うしろ姿だったからね

たぶんまだ怖いんだと思うんだ
安心してもらえたあとのことが

夢が覚めてしまうみたいに
つながらなくなっちゃうんだ

もううしろ姿は
見たくなかったんだと思う

それがたぶん
僕が背を向けた理由

それがたぶん
仕返しって言葉の意味

怖いのは自分だけじゃないってことも
わかってるから

急にいなくなったりしないって
わかってもらわなくちゃって思う

頭だけじゃなくて
心にも、身体にも

馴染ませるみたいに
いっぱい抱きしめて

ゆっくりわかってもらうのが
いいと思うんだ

ひとつだけ
お願いがあってね

いつか僕と
いっしょにいることで

ほんとに安心できてるなって
思うことがあったら

僕が見ることのなかった
とびっきりの笑顔で

どこにもいかないよ、って
言ってみてください

もしかしたら
泣いちゃうかもしれないけど

そしたらそっと
抱きしめていてください

あたりまえ

振り返る道に
ひとつながりだけ

時間の流れが
ゆるやかな記憶があって

色を変えていく
さまざまな記憶の中で

ずっとその色を
変えないままでいた

たぶん僕の
いちばん近くに

あなたのためだけの
居場所があって

それがいまも
そのままあるかもしれないって

あなたはどこか
期待してくれていて

どうやら僕も
できるだけそのままあるように

その場所を
守ろうとしてたみたいだよ

ほんとは「ただいま」って
言いたかったんだよね

確かめるような
上目遣いを笑いながら

そっと「おかえり」って
言ってみるから

あたりまえみたいに
そこにいるといいよ

あたりまえみたいに
あたりまえを抱いて眠ったら

それからじゃないと
始まらない世界を

あたりまえみたいに
ふたり手をつないで

あたりまえみたいに
歩いていけたらいいね

ちゃんと

自分がちゃんと
生きてるかどうかなんて

自分じゃよく
わからないものだけど

あなたがちゃんと
生きてるって言うんだから

たぶんそれなりに
ちゃんと生きてるんだろう

その代わりって
わけでもないんだけど

あなたはよく
わかってないみたいなので

あなたは素敵ですよって
あらためて言ってみたりして

それがちゃんと
あなたに伝わってくれたら

それであなたが少しばかり
調子に乗ったとしても

困るのはたぶん僕だけなので
それはそれでいいんじゃないかな

影法師

不意に強くなった
陽射しに背を向けて

アスファルトに映る影の
濃さに飲み込まれそうになる

とはいえ闇に引力があるなんて
たぶんただの幻想で

もしかしたら彼らは
僕らが地面にめり込まないように

かなりな必死さで
支えてくれてるんじゃないだろうか

僕らにしろ
地面にしろ

元素レベルじゃどうせ
隙間だらけなんだし

太陽光なんて高エネルギーを
四六時中浴びてたら

なにがどうなったって
不思議はないわけで

境界を保っているのが
物理法則なのか精神なのか

そんな考察は神やら宇宙やらと
交信できる連中に任せとくとして

こんな暑苦しいときに限って
それこそ真っ黒になって頑張ってる彼らに

たまにはお礼なんか
言ってみるのもいいんじゃなかろうか